• ムスカリが咲いた

    墓と呼ぶにしては誰の注意も引かない、一見粗末な花壇に見えるわが家の小さな墓地は、敷地の南端に位置しているのだけれど、ブロック塀の陰になって植物の生育が悪い。同じ市内にある裕福な古民家の中庭ではもうムスカリが顔を出していたが、わが家の小さな墓地は未だに冬を引きずったままだ。新築の頃、その一平方メートルの花壇と思わしき空白にはサルビアを植えていた。二年目の秋には思いのほか太く育った茎を切り、それからは手のかからないムスカリを植えっぱなしにしている。墓地の十二時の位置には、前のマンションからともに移り住んだ長毛種のゴールデンハムスター、墨レが眠っている。一時の位置には、まだムスカリの葉がしなびて黄色かった時分にクロクマハムスターのひのでを埋葬した。ムスカリは徐々に株を増やし、日陰の苔むした土の下には球根がぎっしりと並び、年々墓穴を掘るのが難儀になっている。ハムスターの遺体が時計のダイアルをぐるりと囲った暁には、小さな遺体を一体この世のどこに埋葬するのか、まだ策はない。それとも、その頃には十二時の位置に眠る墨レはすっかり土に還っているのだろうか。人の生涯に十も二十も旅立つハムスターたちを、どれほどの土地を所有していれば誰ひとり取り残さずに弔えるのか、小学生の少女のまま飼い続けるわたしは知らない。

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